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2023年8月13日日曜日

Edinburgh Fringe 2023 エディンバラフリンジ2023 今年のガチのベストが出てしまったかも。感動が止まらない(号泣)Ahir Shah: Endsは戦後英国社会史における移民社会の重要性と移民史への謳歌です。

あら!最初タイトルにWiP入れてた(https://tickets.edfringe.com/whats-on/ahir-shah-ends-wip)のに、あまりに絶賛でWiP取った! これで本格的にこの作品が今年のコメディ・アワードの受賞作となる可能性が高まりました。


https://tickets.edfringe.com/whats-on/ahir-shah-ends


アヒア・シャーのショーは過去に何度も絶賛しています。(びっくり。最初にすげーってレポート下の2015年と8年も前だった!)

http://www.gojohnnygogogo2.com/2018/08/edinburgh-fringe-2018ukahir-shah-duffer.html

http://www.gojohnnygogogo2.com/2017/08/edinburgh-fringe-2017-ukahir-shah.html

http://www.gojohnnygogogo2.com/2015/08/edinburgh-fringe-2015ahir-shah.html

HBOでもスペシャルやってます。(イギリスでは未放送)


こんなに素晴らしいマイク一本での名作1時間は久しぶりです。今思い出しても涙腺が緩みます(&ライブ中には会場観客ほぼ全員涙腺崩壊)

うちの娘ちゃんはガッツGen Zなので「スタンダップ」は古い、1時間も自分と同じバイブじゃない人(&世代が)マイク一本で客にダラダラしゃべりかけるフォーマットが苦手なんです。客と演者がナマで共有する空間内では、面白いと例え思わなくても笑わないといけない気分になる、そのプレッシャーがキツイ。しかしこれを見てついに「これはスタンダップというのとは違うし、いわゆるコメディとも違う」と。オレが愛する1hの(ざっくりとした言い方で恐縮ですが)「ライブコメディ」と「スタンダップ」の違いを体験できたみたい。しかも、これを見て「もう今年はこれ以外は見なくてもいいや。これを超えるものはない」と断言しました。

うれしいです!(→あばれる君っぽい感じで)


以下、超ネタバレになります。気をつけて。そうしないと、まるで素晴らしさが伝わらないから。ただ、以下の話は笑いの要素は全て取り除いています。信じられないかもしれないですが、笑いと涙がてんこ盛りです。




ときは、イギリスでRace Relations Actが施行され始め、それまで元植民地Commonwealthの移民法がじわじわとキツくなる頃の1960年代。北インドもパキスタンも政治的にひっくり返っている時で、一方イギリスは高度経済成長で労働者階級も中流階級みたいな経済力がついてくるブルジョア化時代。アヒアさんのおじいさんが、仕事仲間数人と頼る人も誰もいないイングランド、ブラッドフォードへやってくる。インドでは職どころかまともな生活もままならないため、妻に「職のあるイギリスで稼いで、お金を送ってくれ」と言われてやってくるのです。時間交代制で仲間と寝床をシェアし、1日3食分の手当もそれぞれ1食分を分け合うことで1食分を浮かして、貯金に回す。そして少しでも多くのお金を家族へ仕送る。

おじいさんは、移住したからにはイングランドの文化、イングランドの生活習慣をリスペクトし吸収するのが道理というもの。ジョン・ルイスで働き、地元コミュニティに全力で歩み寄り、仲間になろうとする。例え、石を投げられ、罵倒され、決してコミュニティの心の壁が取れることはなくても。

努力の甲斐あり、やがて奥さんと子供たち(アヒアさんのお母さん)がイングランドへ移住できるまでになりますが、失われた長い時間は愛する我が子たちが自分を見て恐れてしまうほどの、大きなダメージとなっていました。さらに月日は流れ、子供たちは巣立ち、アヒアさん誕生。1998年には家族みんなでリビングでGoodness Gracious Me(→大ヒットした2nd Generationのアジア芸人さんたちによるBBCスケッチショー) を鑑賞。おじいさんは2012年にこの世をさります。

自分の意志はガン無視でアレンジされ、出会ったその夜に結ばれた相手を生涯の伴侶と受け入れ、愛し続け、その人と子供のために、単身で知らない国の知らない街で生活する。本当は故郷が大好きで一時たりとも離れたくなんてなかった。だから晩年「今まで自分自身のわがままを通すことができなかったからせめてやりたいことやらせてくれ」と病を患いながらも公害がひどい、確実に病状が悪化する故郷に里帰りを欠かさなかったらしいです。

ショーは、戦後英国社会史における移民社会の重要性と移民史への謳歌です。アヒアさんのおじいさんのような方々がどんな屈辱や苦しみにも負けず、頑張ってきた。イギリス社会の一部になろうと血の滲む努力をしてきた。次の世代の未来が少しでも開けるように。取ってつけたものではなく、イギリス社会の一部へとなり得るように。その努力は確実に次の世代へと受け継がれ、ロンドン市長が、そして今や英国の首相がアジアの移民系でもなれる時代に。アヒアさんも何の障害もなく、いとも自然にアイリッシュの白人の女性と恋に落ち、皆からの温かい支持を受けて結婚できた。

色々問題はある。まだまだ問題はある。だけど、うちのじいちゃんがどれだけ頑張ってくれたことか。

アヒアさんのおじいさんは残念なことにSadiq Khanが市長になった時を見ることができなかったそうです。せめておじいさんが頑張った証が見れたらよかったけれど・・・と。そのためにも、このショーがアワードをとるなりなんなりして、1人でも多くの人がアヒアさんのおじいさん、そしておじいさんのような家族のいる人々すべてへ祈りと想いを寄せくれたらいいなぁと思っています。

映画とかドラマ化でイメージできるくらいのすごいショーでした。

(*1)念の為、戦後イギリスでは経済成長が60年代にどどっと起きる一方、労働力全然足らないため、元Commonwealthの国、特にアジアのインドとパキスタン方面からたくさん移住の斡旋(?)がありました。


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