一回行って、大変楽しんでレポートしたばかりなのですが、本日ノコノコとお昼のショーを観るために並んでいるときに、息をするかのようにチェックするツイッターのTLに
ニック・ヘルムが、
https://tickets.edfringe.com/whats-on/nick-helm-what-have-we-become (本人ショーのリンク)
マクベス演出。
まるで理解不能なパワーワードが2つ並んでいるのを目撃しまして。
ニック・ヘルムといえば、オレがそれはもう長年ご贔屓にしている超才能のある芸人さんです。8 out of 10 catsとかそーゆーパネルショーでもおなじみかと思いますが、BBC コメディ Uncleで一躍有名になったのではないでしょうか?英国のコメディドラマでちょこちょこいい味出してる。
感想記事やお知らせ記事をたくさん更新しています。が、ここで紹介している文面がものすごくよくまとまっていると思うので、こちらの記事をお勧めします。
そんなわけで、ニック・ヘルムというパワーワードを出されたら、オレが行かないでどうするよ。というわけで、行ってきました。この芸人さんが喋る言葉は全てパンチラインですね。どんなに弱い玉でも、拾ってスマッシュする。まるで無駄がないどころか笑いの大量生産です。土曜の夜なので、お行儀の悪い客も混ざってるんですよ。特にニックの客層はそういうのが混ざる可能性が高い。そういうお行儀の悪い客もちゃんと取り込みつつ上手に回す。涙流して笑いましたが、感動しました。
さて。
前回のレポートでもお話ししましたが、このマクベスの基本ルールは以下の通り。
1。毎日ですね、フリンジにいる誰かをとっつかまえて演出家として招待し、その人の指示通りにマクベスやります。ほんとに言われた通りに従ってやります。
2。ショーはもちろん1時間枠です。1時間で2時間半のマクベスを終わらせます。無理やり終わらせます。ゲスト演出家も演者の二人も時間内に終わらせることをつねに気にしますので、芝居が終わらずに終わるということがありません。
3。マクベスを2人だけで演じます。いや、マクベスの一人芝居ってアラン・カミングが昔やったけど、そういうことじゃなくて、ふつうのマクベスを2人だけで演じます。だから例えば1シーンで1人が魔女やってバンクオーやって夫人やるんです。超ベーシックに衣装とかカツラとか変えてやるんです。
すでにこの時点で相当無理がある上に、その上に、あのニック・ヘルムが、即興で、演出したら・・・? 一回限りのことなので、ネタバレしちゃいたいと思います。
【開始前に大問題発覚】
オレらが会場に入って、下手脇に鎮座するディレクター・チェアーの近くの席に腰を下ろすと、センターでティムさんが、1番前席のお客さんと熱心にやりとり。お客さんへと目を向けると、フリンジあるあるの、ショーの年齢制限を丸無視して、お子様連れてきちゃう、ってアレでして、ど真ん中に小さな男の子がちょこんと座っておりまして。
年齢6歳(ウップ)
今日は特に6歳のお子様にふさわしい内容にはならないので、出ていくなら今。お金は払い戻します。と説明を入れている(はずです)が、動かぬ両脇の両親(*)。
【ティムとトムのウォームアップ的なイントロ&本日の演出家紹介のフリでニック・ヘルム登場】
演出後登場後、20秒と立たぬうちにF語とC語の嵐。手加減するわけがありません。6歳児に目を見やり「6歳なんだってね。ふぁっきんごしゅうしょうさま。あんたら両親Cxxxだな」と最大限の親切をするニック。つまりこの時点なら、(万が一程度を推し量れていなかった場合)気を変えて、会場を出ることができる。どんな頻度でどんな程度の言葉が飛び交うのかを親切に教えてあげたのです。しかしそれでも頑として動かぬ両親。そーかい、じゃあ遠慮なく、ということで、ここから先2−3語に1回の割合くらいでF語が入ります。
【魔女3人、演者2人。どうしても3人フィジカルに見せたい演出家】
「演出家のポジションに見合うシェイクスピア的経験は?」
「・・・ライオン・キングを見ました」
「・・・」
「で、最初はどんなシーンなんだっけ?」
「ま、魔女の登場です」
「ああそう。じゃ、まあ、ベストを尽くしてやってください」
ようやく芝居スタート。演出家のビジョンは「みんなにクリアにわかりやすく、明るい、ライトなテイスト」のマクベス。照明も明るく、と魔女のシーンは照明ガンガン当てて開始。しかし程なく、その案は却下となり、赤、緑と迷走。
しかし、魔女が喋り出すとほどなく、
「ちょっと待って。お前何役?」
「魔女です」
「お前は?」
「魔女です」
「魔女って何人出てくるの?」
「3人」
「じゃあお前ら2人で3人分の魔女やってるってこと?」
「はい」
「わかりづらい!!!」
叫ぶ演出家。
「せめてもう一つ頭がないと、無理。なんかないの?」
「あ、マスクがある(→猿のラバーマスクを慌ててとってくる)これでは?」
「あー、いいんじゃない? あとさ、音楽なんだけど、やっぱりちょっとバイブが違うんで、セラ・ブラックのサプライズ、サプライズ(注:昔ITVでやってたファミリーフレンドリーなバラエティ番組。→しつこいようですが、マクベスの方向性は「明るくライトにわかりやすく」)のテーマに変えて欲しいんだけど・・・Spotifyに入ってるでしょなんでも?」
「・・・えーっと(曲を探すトムさん)い、いや、ないですねぇ・・・YOUTUBEには上がってるんでそれをかけます・・・」
「オッケー、じゃあ、アックション!」
で、かかった音楽が
これで、ブチギレる演出家。「
ちがああああああああう!」
「えええええええ???でも、これは確かにサプライズ、サプライズの・・・」
「違うだろ?! らいふ、いず、ふーる、ふぅる おゔ さぷらいずいーず🎵🎵だろっ?!」
「あ、そ、それはエンディング・・・」
「ああ??」
「エンディングだったんですね、いやテーマ曲っていうからつい・・・(小声)」トムさん小さい人なので、恐喝されてる中学生にしか見えません。
【ただでさえ時間がないのに、細かい演技指導に入る演出家】
おそらくこの時点でゆうに30分はすぎているはずですが、まだ最初の魔女のシーンであり、かつ魔女がろくすっぽ喋ってません。にもかかわらず、魔女役に細かい演技指導を始める演出家。
「あのさ、The importance of being Earnest 見たことある? Patricia Routledge(注:90年始めにTVコメディkeep Up with Appearanceでシアターとか行かない人もみんな知ってる女優さんになったという印象ですが、間違ってたらごめんなさい)のBlacknell夫人ってさ、今お前がやったみたいな感じじゃん? そーじゃなくてさ、ジュディ・デンチがやったバージョンの方、そっちにしてくんない? (とジュディ・デンチを真似る)」
ここでいいしばらく、ジュディ・デンチ風魔女のトレーニング・タイム。さらには「Caudronは?」とないものをねだるので、演者二人は3人の魔女に加え、(薬混ぜる例のでっかい)ツボ役までやらないといけない、という始末。
【その後、起こった惨事】
力尽きてきたので、リスト書きします。
- 認識できない登場人物は「そんなやつ知らん。重要なのか?」と排除。冒頭で、ストーリーのセットアップ的な役割をしてくれてるマクベスの部下を「知らん」と排除。メッセンジャーを「いらないそんなもの」と排除。
- 「あいつが問題を複雑にするせいで上演時間が長くなる。あいつが諸悪の根源。あいつさえいなければ済む話」とマクベスを排除。結果、ストーリーがさらに迷走。マクベスがなかったことになってバンクォが喋ります。バンクォはトムさんがやったのですが、魔女のシーンで受けた演技指導から方向性を掴み取り、バンクォは「キアヌリーブス」アクセントで進行。演出家にめちゃくちゃ褒められます。
- 「この芝居のトラウマ的な苦悩を表現するために、演者二人同時に喋れ。観客が「どっちを聞いたらいいんだあああああ」とさいなまされ、時間も節約できる!」と、なぜかマクベス夫人とメッセンジャーが同時に叫び合うシーンが展開( この時点で削除されたメッセンジャー復活)。演出家はそれを見て「我ながら素晴らしい演出だと思う」とガチで自画自賛。
- とにかく、時間がない。時間がないんです。倍速で進行するために、セリフをかいつまめ、短く喋れ、登場人物削れ、とあれこれ試行錯誤してたのですが、まだ誰一人として死なないうちに1時間経過。ガチの会場スタッフが何度も演出家に近寄り「マジ終わってください」と請願。
「この話、誰が死ぬの?何人死ぬの?」
「たくさん死にます。いろんな人が死にます。ダンカン、マクダフの子供と奥さん、バンクォ、夫人・・・(と羅列してく演者二人)んでマクベス。マクベスも死にます」
「マジで?! もうー無理じゃん! わかった、じゃあ、みんなページ開けて、えっと・・・ページ〇〇目!」
「いや、だから、最初に説明した通り、それぞれ持ってるマクベスの本、バージョンが違うんで・・・」「〇〇ページ目を開いても、同じシーンにみんないない・・・」
「いいから!〇〇ページ目開いて!!で、そこのページ1stラインから交互に読んで!」
結果、再び魔女のシーンに戻る演者と、ダンカン王が喋る演者が同時に登場。
- しかしながら、この方法が意外といける、と気に入った演出家は、この方法で最後のページを読んで終わりにすることに。何一つ終わってないですが、終わりました・・・次のショーのお客さんが攻めてきているので、このショーの客は別の非常口を通って会場を出ることに。
ということで、こんなマクベスを見たら他のマクベス見れないよね、っていうくらいトラウマ級に面白かったです。
(*)あのね、6歳の子供が入ってきても6歳児に合わせた言語レベルにはならんのですよ。特にゲストの演出家目当てで、ソールドアウトなんです。連れてきた方が悪いんです。こういう両親見ると正直めちゃくちゃ腹たちますね。
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