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2024年4月29日月曜日

【考察】TikTokとかでクリップがガツガツハネてるFin vs the Internetに、イギリスの善良な白人の芸人さんたちの迷走っぷりが如実に出ていてものすごい興味深いです

Fin vs the Internetは、Fin TaylorさんとVittorio AngeloneさんとHoratio Gouldさんの3人によって作られている1エピソード10分くらいのシリーズです。

YOUTUBEの再生回数は5桁くらいしかいかないのですが、TikTokとインスタではすんごいハネてて、うん十万うん百万回とか平気で回っています。

表に立つのは、この3人の中では一番キャリアが長くて売れてるフィン・テイラーさん(ゆえにFin vs the Internet)。

でもVittorioさんは2022年にお芝居の構成内容に沿って展開するショーが1hショーのデビューだったにも関わらず、高評価を叩き出し、その後も上手にSNSを使いこなし続けてるみたいなので、若い人たちの間では、認知度高いと思います(多分)。


【シリーズの前提】

フィン・テイラーさんは、Mock the Week 等のパネル・ショーやBBCのご長寿スタンダップショーケース番組Live at the Apolloなどのテレビ出演を数々こなし、知名度あるはずなのに、自分のYOUTUBEチャンネルはハネないし、シアター・レベルのハコはおろか、中サイズレベルのハコもチケットが思うように売れず。一方、インフルエンサーやティックトッカー、リアリティTV出身者たちは、(ライブステージの経験もないのに)ライブイベントをやる、となったら、あっという間に大きな劇場やアリーナサイズのハコを瞬間にソールドアウトにしちゃって、ウハウハできる。

いんたーねっと、でヴァイラルになりたい。なるにはどうしたらいいの。

というわけで、今流行りのソーシャル・メディア成功者たちにインタビューして、ノウハウを取得しようと思います。

という名目の、Between Two Ferns みたいなやつ。 です。



【Fin vs The Internetの制作ノート】

3人はこのシリーズ制作において、Ali G の制作過程をモデルとしていると語っています。(ソースはPatreonで上げてるご本人たち談)

(念のため、Ali Gはサーシャ・バロン・コーエンのTVブレイク・キャラです。25年かそれ以上前の話をしています)


Ali Gとしての冠番組をもらう前から別番組のコーナー枠でやってたインタビュー・コーナーの尺は5分−10分くらい。インタビュー相手の反応で、これだ!というのを抽出するために、ものすごい長回しをする。この手法を使って、「ダメの白人イギリス男」代表キャラとして、インターネットを賑わす今どきなみなさんとチャットし、「これだ!」を抽出しちゃいましょう。

Fin Taylorさんといえば、ずっと本人の「政治的に左なのに左で頑張ろうとしても何一つ機能しない世の中で、どうしたらいいかわからんポリティカル・ホームレス」的ポジションを武器にものすごいエッジでクレバーな社会&政治風刺を繰り広げていた芸人さんで、例を出せば

→ http://www.gojohnnygogogo2.com/2017/08/edinburgh-fringe-2017-fin-taylor-lefty.html

翌年は、エディンバラのコメディ・アワードにもノミネートされた(オレ的にはこれで彼は2018年のキング・オブ・コメディになると思っていた→ならなかった)

→ http://www.gojohnnygogogo2.com/2018/08/edinburgh-fringe-2018me-too-fin-taylor.html

この路線で露出しても、全然、チケット販売に繋がらない。人気も認知度もミャーミャー。・・・からの、ヴァージョン・アップとしてオンラインシリーズ上に爆誕したキャラが、進化系ではなく、退化系フィン・テイラー。

もう知らんがな、(生まれも育ちも白人のイギリス男の)本能の赴くまま、頭に浮かんだこと全部ベラベラ口に出しますけど、何か? と、これ言ったらどうなるかとか考えずに(注:という設定で台本書いてる、という意味です)、いんたーねっと成功者たちと繰り広げるやりとりを延々と録画し、そこから抽出したバイラル要素を切り貼りしまくって作る5−10分になります。

たしかフィンテイラーさんの奥さんのインプットで(注:2024年4月現在二児の父)やりはじめたインスタとTikTokで、激ヤバに失礼だったり下品なことをおくげもなく、取材相手にぶちまけているクリップをあげていくうちに、前述のレベルでクリップが回るようになっていってます。とはいえ、最初のきっかけは、このシリーズをやりはじめたころに、なぜかアメフトのアの字も知らんし興味もないのに、ゲストとして呼ばれたGood Morning Football (注:American Football)からのクリップ。上記のキャラが最善の形で笑いを生み出したのですね。そこからこのシリーズに流れ新しいファンできていったのはあったと思います。



【考察】

退化系のフィンさんは「頭に浮かんだこと全部ベラベラ口に出します」。なぜこのバージョンになったのかは、以下のように推測できるし、理解できるんです。

1)Political Homelessの苦悩キャラはBBC Radio4、どんなに背伸びしてもBBC2層に響くだけの(所詮は)ニッチ・キャラ。Taskmasterマジックでもない限り、売れないのです。しかもその層って人生もとっくにUターン組(オレ?)が結構なシェア率を占める。ここにしがみついても先がない。

2)Fin Taylorさんはギリかもだけど、VittorioさんとHoratioさんの属する(元々のミドルクラス&大卒&ワーキング・クラスのブルジョア化の結果生まれたミドルクラス)の世代って、政治経済社会といろいろわかってても、どの方面においても諦めと絶望しかなく、白人の男性に関してはジェンダー―と人種問題に翻弄されまくり、いっぱいいっぱいななか、自分なりに折り合いを模索していて。ここに響くのは、アルター・エゴ的なRighty Loosey gooseyなキャラなんでしょうよね。気合入ってると、うざいしださいしで、若いのはついてこないです。

3)からの、言っちゃいけない言葉や内容をノーコンテクストでランダムに飛ばしちゃう。う○こ、とか、ち○こ、とか、ケツ、とか、フェラ動作とかワンキング動作とか。こーゆーやつ言い合ってやりあってゲラゲラ笑ってる若者は子供だけじゃなくて結構なシェア率です。唐突なのと馬鹿馬鹿しいのの掛け合わせで人が笑うってある。これやっちゃおう(だって超ピステイクじゃん)これは(2)で話している層だけじゃなくて、もっと広い層って気はしますけど…。

実際この戦略でSNSも成功し、ツアーは大き目のハコもソールドアウトになるし、と結果を出してますから、彼らにとって方向性は合っているのでしょう。

とはいえ、オレのような笑いの趣味からすると、ホームランを打つ打率が低い。キャラクターやパーソナって一個人をフィクションで作り上げるもんですから、ものすごい緻密に、ものすごい掘り下げて作っていかないと、ちょっとした言動がブレたり、ぬるくなる確率が高くなる。退化バージョンのフィン・テイラーは、ランダム性の高いRighty Loosey gooseyなキャラだから、上記の副作用が出る確率高くなっちゃうンじゃないかな、と。

あと、取材相手が芸人さんじゃないし、インフルエンサーとかリアリティTVスターって善良でセンシティヴな人多いから、平場のトーク回し、そんじょそこらの才能と経験じゃ…ってところあると思います。

3人とも、(そこそこ結構なシェア率を占める)前述のアルター・エゴは持ち合わせてはいるけど、それに支配されているタイプではないので、振り切らないといけない時に、無意識下による微々たるためらいが出ちゃうのかなぁ。とか。とくに、アメフト番組のゲストとなったときのフィン・テイラーさんと比較すると。。。あれは本当にテイラーさん自身の延長戦で、アメリカのアメフト界に何思われたって失うものはなにもないですから、怖いものなしで振り切れるし。と合点がいっちゃうんですよね。あくまでオレの中でですけど。

【で、最近】

3人がPatreon会員の質問に答えるさながら、笑いについて再び談話している回があったのですが、そこで「ああいうことやってウケてる芸人いるけど、アレやりたくねえな」っていうのをそれぞれ話していて。最初は、こうしたポリシーがこのシリーズのバックボーンにもなっているんだな、と思ってたのですが、

「前に座ってる客とかをいぢるのはやりたくない」(→これはよくある話なのでともかく)

「オレたちミドルクラスだしオレたちの笑いを見に来るのも結局ミドルクラスなんだから、ミドルクラスがのぞきたいワーキングクラスを見せるワーキングクラス側に寄り添ったコメディやりたくねえ」(→あら、これあの人(たち)のこと言ってる)

「(ステージ転ぶとかステージから落ちそうになるとかプロップ系で不具合があるとかetc)ステージアクシデントをネタとして盛り込むのやりたくねえ」(→あたたたたた! 耳が、耳が痛い)

ちなみに、ヴィットリオさんは、「アイルランド」「ベルファスト」「ロンドン移住民」「バックグラウンドはイタリアからの移民」っていうカード一切使いたがらない。(→ギリ北アイルランド紛争停戦後ベイビーで、(経験的に)知らない世代に入っちゃうせいかな?) そして、ホレイシオさんはお父さんはガッツリ系のワーキングクラスのバックグラウンド(→2023年のエディンバラフリンジのショーで言ってた)

たぶん、お父さんお母さん教師で職場がプライベートスクールだったせいでプライベートスクールにずーーーーーっと通ってたっつうレベルの、ガチのガッツリ!白人イングリッシュ・ミドルクラスってフィン・テイラーさんだけ。

この彼らの「これやりたくない」をきいてるうちに、あまりにもあれもやりたくないこれもやりたくないに溢れかえってて。彼らはパンクというよりは、英国コメディ業界の現状をまえに中二病にかかっちゃったのかしら・・・(汗)? とか思ったりしてます。

そんなわけで、ドーンとハネる時が来ると思うんで、引き続きウォッチャーは続けてたいなーと。応援してます。


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